ほっと、人、あんしん。京葉ガス

ともに With you 千葉

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presented by SHUFUNOTOMO

やっぱり千葉が好き! 第16回 いちばん近い小江戸で遊ぶ 〜佐原の町並み/香取神宮

はじめて「真冬」の佐原を訪れた。

その風情から「小江戸」と称される町並みを貫流する小野川沿いの柳は、すっかり葉を落として寒々しいし、立ち並ぶ歴史的建造物も、肩を寄せ合って震えているようにも見える。

 

でも、この町は、そういうところまで味わい深いのだ。

 

いわゆる「わびさび」というやつ。

柳の枝をよくよく見ると、まだ固くて小さな芽が、芽吹きの日をじっと待ちわびているし、古い建物の木肌はむしろ暖かくも感じられる。

 

この日は真冬の平日で、観光客もまばらだった。

しかし、だからこそ、小説家の頭のなかでは「妄想」が膨らんでいく。つまり、目の前に展開している「冬の小江戸」の景色を、江戸時代当時の映像に脳内変換しながら愉しむのである。

妄想に限界はない。一瞬にして葉のない柳を青々とさせることもできるし、水郷らしく川辺をアヤメの花びらで彩ることだってできるのだ。しかも、タダで。音も匂いも自由自在。ぼくはひたすら江戸時代を想いながら、寒風のなかのんびりと歩いた。昔ながらの荒物屋をのぞいたり、地元の醤油を使った名物「しょうゆジェラート」を味わったりしながら。ジェラートは現代的だけど。

 

さて、佐原を愉しむには、歩きもいいが、水郷地帯らしく小舟での遊覧もおすすめだ。

 

ぼくは「小江戸さわら舟めぐり」の「町なみコース」を申し込み、木製の小舟に乗り込んだ。大人一三〇〇円で、三〇分ほどの船旅を楽しめる。

船頭さんは、地元の農家の可愛いおばあちゃんだった。

このおばあちゃんのガイドに耳を傾けながら、ゆったり、ゆったり鏡のような水面を漂っていく。水面には、空と町並みが映っている。

まさに、癒しの刻――。

 

思いがけず嬉しかったのは、「こたつ」に入りながら遊覧できることだった。これは真冬ならではのサービスである。

熱燗でもあったら、さらにいいんだけどナ……。

 

ちなみに今年は二月九日〜三月二四日まで「さわら雛めぐり」というイベントが開催されていて、古い商家に伝わる雛人形が町中のいたるところで展示されていた。取材は、ちょうどその時期に当たっていたので、小舟で漂っているときも、川辺に飾られたいくつもの雛人形と出会うことができた。

 

佐原といえば、伊能忠敬が暮らした町としても知られている。

言わずと知れた、徒歩で日本を旅しながら、驚くほど正確な測量でもって日本地図を作った人物である。

 

「伊能忠敬記念館」を訪れると、忠敬が全国を測量して回った際に使われた道具や、出来上がった地図など、国宝を含む多くの関係資料を見ることができる。

はじめてこの記念館を訪れた人は、きっと忠敬の測量の正確さに驚かされ、地図に書き込まれた土地の名前の細かさに感嘆することだろう。ぼくは二度目だったけれど、やはり一見の価値がある記念館であった。

 

あまり知られていないが、伊能忠敬が最初に測量の旅に出たときの年齢は五五歳だった。江戸時代の五五歳といえば十分に高齢の部類に入ると思われるが、しかし、忠敬は東北と北海道を徒歩で測量したのである。そして、その後も、第二次測量、第三次測量と小分けに旅を重ねていき、ラストの第十次測量の旅をしたのは、じつに七一歳のときのことだったそうだ。

 

ちなみに、かのカーネル・サンダースが、世界ではじめてフランチャイズの店「ケンタッキーフライドチキン」をはじめたのは、六五歳のときのことで、しかも、自分のフランチャイズ店になってもらえるよう、ひとり全米を車で旅しながら、片っ端から飛び込み営業をかけたのだそうだ。

すごいのは、断られても、断られても、カーネル・サンダースはあきらめなかったことである。

驚くなかれ、彼が断り続けられた数は、なんと一〇〇九回!

つまり、一〇一〇件目で、はじめて最初の契約をしてもらえたのだそうだ。

そして、その後の快進撃はみなさんご存知のとおり。

いまや世界八〇カ国、一万店舗を超える、一大ファストフードチェーンとして君臨している。

 

人間、いくつになっても夢にチャレンジしてもいいのだな――。

 

と、伊能忠敬とカーネルサンダースには教えられるのである。

 

佐原では記念館のほか、伊能忠敬が実際に住んでいた旧宅を見ることもできるので、往時をしのびながら見学してみるのもいいだろう。

 

◇   ◇   ◇

 

夕暮れ前、佐原からほど近い「香取神宮」を訪れた。

 

伊勢神宮、鹿島神宮と並んで「日本三大神宮」のひとつに数えられるこの神社は、国家鎮護の神様(=勝負事に強い刀剣の神様)が祀られており、最近では「千葉県最強のパワースポット」などと言われているそうだ。

 

ちなみに、この神社の拝殿を目の当たりにしたとき、ぼくは思わずこうつぶやいた。

「うわ、格好いい……」

 

重厚な黒を基調としたなかに、きらびやかな金色が映えるシックなデザインは、なんとも男性的で、まさに「漢」の一文字。これまで日本中をあちこち旅してきたぼくだけれど、こんなにも格好いい拝殿は見たことがない。なんだか境内に満ちた空気感までもが、とても雄々しく感じられてしまうのだった。

 

参拝をしたあと、この神社の名物ともいえる「要石」を見にいった。

 

地上部分は、せいぜい漬物石を少し大きくした程度のサイズなのだが、じつは、この石こそが地中の大鯰(オオナマズ)の「尻尾」を押さえ込み、地震から守ってくれているのだそうだ。じゃあ、大鯰の「頭」を押さえているのはどこなのかというと、なんと、鹿島神宮にあるもうひとつの「要石」だという。

 

さて、千葉県最強と謳われるパワースポットを後にして、佐原の古い町並みに舞い戻ってきた。

 

今夜の宿泊は、檜風呂のついた古民家ホテル。

そして、夕食は絶品フレンチときた。

伊能忠敬は徒歩だったけれど、車と高速道路を使える現代人のぼくは、地元の船橋市から一時間ちょいで「小江戸」に来られるのだからありがたい。

ちょいと小粋なオトナの遊び場――。

そんな佐原が、ますます好きになってしまった。

 

 

 

【小江戸さわら舟めぐり】

〒287-0003

千葉県香取市佐原イ1730-3

TEL: 0478-55-9380

HP: http://www.kimera-sawara.co.jp

 

【伊能忠敬記念館・旧宅】

〒287-0003

千葉県香取市佐原イ1722-1

TEL: 0478-54-1118

HP: https://www.city.katori.lg.jp/sightseeing/museum/introduction.html

 

【香取神宮】

〒287-0017

千葉県香取市香取1697-1

TEL: 0478-57-3211

HP: https://katori-jingu.or.jp/

 

作者:森沢明夫

写真:鈴木正美

写真アシスタント:重枝龍明

編集:西小路梨可(主婦の友社)