ほっと、人、あんしん。京葉ガス

ともに With you 千葉

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presented by SHUFUNOTOMO

やっぱり千葉が好き! 第14回 吹きガラスとサクラガイ 〜主基グラススタジオ・土屋水産

好きな授業は、体育と図工と音楽。

いわゆる「お勉強」以外で本気を出すタイプ。ぼくはそんな子供だったし、いまも本質的には変わっていないと思う。

今回の取材は、そんなぼくにぴったりの「吹きガラス体験」という

「ほぼ図工」なので、もはや四十も後半だというのに、朝からわくわくが止まらないのである。

 

体験させてもらうのは、エメラルドグリーンの海が広がる鴨川の、やや山側に入ったところにある「主基グラススタジオ」さん。

 

ひっそりとした緑の山あいに、ギャラリーと工房が併設した白い建物がぽつんとあるのが、なんだかとてもいい雰囲気である。

しかも、ギャラリーはガレージのような作りで、いわゆる「壁」がない。つまり、ここで作られたガラス作品たちは、森の匂いのする風に吹かれ、自然光をたっぷり浴びて輝きながら展示されているのである。

 

オーナー夫妻は、トークがとても上手な鈴木洋史さんと信子さんで、この二人が吹きガラスを教えてくれる。

体験で作れるガラス作品の種類は想像以上に多い――、というか、「初心者には難しすぎる形状であったり、極端に大きかったりしなければ、まあだいたいオーケーですよ」という鈴木さんのユルさが、なんともぼく好みである。ようするに、色、形、模様に至るまで、ほぼ自由に選んで作らせてもらえるのだ。

たとえば、ギャラリーに展示してある作品をみつくろって鈴木さんに見せながら、「形状はこのグラスで、模様はこっち。で、色はこれにしたいです」というスタイルでオーダーができるのである。

 

ぼくは、ウイスキーグラスを作ることにした。

安定感を出したいので、底面のガラスは分厚くし、さらにガラスのなかに無数の小さな気泡を入れたデザインを採用。

 

鈴木さんいわく、

「ガラスに気泡を閉じ込める手法はね、イタリアのベネチアで500年ものあいだ『極秘』とされてきた特別な技術なんですよ」

しかし、その『極秘』だった技術もいまや世界各地に広まり、吹きガラス体験をする超初心者のぼくまでが楽しめるようになったのだから、ありがたいことである。

 

さて、能書きはその辺にして、図工好きには愉しい実践だ。

まずはエプロンとアームカバーと軍手を着けて、安全を確保。そして、専用の椅子に腰掛けると、鈴木さんがごうごうと燃え盛る炉(1200度)のなかにブローパイプ(金属の筒)を突っ込んで、その先端に水飴みたいにとろけたガラスを巻き取ってきてくれる。

 

ぼくのように「気泡入り」を作る場合は、まず、水飴状のガラスの塊を小さなすり鉢のような金型に押し付ける。その金型の内側には細かい突起がたくさん付いているので、ガラスの表面には無数のくぼみが作られる。そして、さらにそのガラスの上に炉で溶けているガラスを巻きつけることで、内側に気泡を作れるのである。これがベネチアで500年もの間「門外不出」とされていた秘技なのだった。単純すぎて、ちょっと拍子抜けしそうだ。

 

気泡が入ったガラスを、ぼくは鈴木さんの指示どおりくるくる回しながら息を吹き込んで膨らませた。そして、木ベラなどを使って底を平らにし、専用の洋ばし(西洋の箸)で挟んで「くくり目」をつけて、グラスの口になる部分に凹みをつけ……と、詳細に書いても、結局はやってみなければ分からないと思うので、ここではあえて成型の手順は省くけれど、とにかく、ガラスがとろとろのうちに成型し、形ができたら、それを徐冷炉という「ゆっくり冷やす炉」に入れれば体験終了である。

 

ガラスは急に冷ますと割れてしまうので、成型時に500度以上あった熱々のガラスを、ゆっくり12時間もかけて40度にまで冷ましていく。そのための炉が「徐々に冷やす炉」、徐冷炉というわけだ。

 

出来上がったグラスには、簡単な文字やデザインを刻み込んでもらえる。つまり、自分で作った記念に「刻印」をしてもらえるのだ。

「若いカップルなんかだとね、それぞれ自分の名前を刻み込んだグラスを作って、お互いにプレゼントしたりしてますよ」

言いながら鈴木さんはメガネの奥で目を細めた。

結婚式の引き出物としての需要もあるそうだが、なるほどいい記念になりそうだ。

刻印が刻まれ、完成したグラスは、およそ一週間後に送られてくるとのこと。

ぼくは大好きなジャック ダニエルを購入し、満を持してその日を迎えるつもりである。

 

◇   ◇   ◇

 

九十九里浜は、太平洋に面した全長約66kmの長い長い砂浜である。

古くは「玉の浦」と呼ばれていたそうだが、あるとき源頼朝の命により、一里ごとに矢を立てていったところ、その矢の数が99本にまで達したことから「九十九里浜」と呼ばれるようになった││という説がある。

しかし、実際のところ「一里=3.93km」だから、それの99倍となると、全長約389kmとなってしまうので、この頼朝説はどうも怪しい気がするけれど、まあ、いいか。

 

とにかく、その長い砂浜の中央からやや銚子寄り(北寄り)に、山武市の蓮沼海岸が伸びていて、ぼくが二十歳くらいの頃から通い続けてきた焼きハマグリの店「土屋水産」は、そのすぐ向いにある。

九十九里浜にいくつもある焼きハマグリの店のなかから、どうしてぼくがここを選び続けてきたのかというと、じつは、サクラガイを食べられる可能性が高いからである。

 

サクラガイというと、人の爪のような小さくてピンク色の二枚貝を思い浮かべる人も多いと思うが、ここでいうサクラガイはまったく違う種類。

ハマグリよりも大きく、でも、薄っぺらくて、貝殻の表側は白いけれど内側は桜色をした二枚貝――しかも、食べるとハマグリよりも甘みが濃厚で歯ごたえもいいのだ。

標準和名は知らないが、おそらくアラスジサラガイと近い種類なのではないか、と思ってはいる。

 

20年ほど前、たまたま出会った漁師に聞いたところによると、サクラガイはずいぶんと泳ぎの得意な貝だそうで、前日たくさん獲れた場所で漁をしてみても、ひとつも獲れないなんてことが普通にあるらしい。

「あいつら、貝のくせに一晩で何キロも移動するんだ」

と、その漁師は苦笑いをしていた。

つまり、たまたま獲れたときだけ、幸運にも食べられる――。

それが、サクラガイなのだ。

 

しかし、「土屋水産」には生け簀があるので、漁師が獲ってきたサクラガイを生かしたまま長期間保存できる。それゆえ、サクラガイと出会える確率が高まる。だから、ぼくはここに通ってきた。

とまあ、そういうワケなのである。

 

この日、ぼくら取材チームは、冷えた生ビールを飲みながら、サクラガイを筆頭に、ハマグリ、ホッキ貝(刺身と焼き)、なめろうをどしどし胃袋に押し込んでいき、〆に蛤ラーメンを流し込んだ。

 

美味しいものだけで満腹になるというシアワセ。

 

東日本大震災のとき、「土屋水産」は津波で床上浸水したというが、その後、営業を再開してくれて本当によかった。

おかげさまで、これからもぼくの「サクラガイ通い」は続くのである。

 

 

後日、送られてきたグラスたち。手前がぼくの作品で、他の3つは同行スタッフの力作です。

乾杯!

 

 

 

 

【主基グラススタジオ】

〒296-0103

千葉県鴨川市上小原410

TEL:04-7097-1443

HP:http://www.sukiglass.com/

 

【土屋水産】

〒289-1802

千葉県山武市蓮沼ロ-3015-8

TEL: 04-7586-3262

 

 

作者:森沢明夫

写真:鈴木正美

写真アシスタント:重枝龍明

編集:西小路梨可(主婦の友社)