やっぱり千葉が好き! 第9回 「何もない」を愉しむ贅沢 〜21世紀の森と広場
ここ「21世紀の森と広場」をひとことで言うとすれば、「だだっ広い」となる。
ふたことで言うなら、「うわっ、だだっ広い!」である。
もはや「市営」の施設とは思えないくらいの規模なのだ。
総面積は、じつに50.5ヘクタール。
と言ってもピンとこないと思うので、お決まりの「東京ドーム」で例えると、ナント、約11個分もあるのだそうだ。しかも、敷地のなかに東京ドームまるまるひとつ分の千駄堀池が横たわっていると言えば、その伸びやかな風景も想像できるだろう。
ぼくが訪れた日は晴天だったから、視界に入る色彩のほとんどは、青と緑だった。しかも遠くを見晴るかせるので、しばらく散歩をしていたら視力が上がりそうな気すらしてくる。
薫風に包まれ、じつに気持ちがいい。

そもそも、この公園は「自然尊重型都市公園」として造られたという。つまり、地元の千駄堀地区の自然を守り育てることを命題としているのである。それゆえ「公園」にしては人工物が少なく、なるべく豊かな自然をのんびりと満喫できるようになっている。森と、芝生と、花壇と、畑と、小川と、池と、湿地が、この公園のアトラクションなのだ。
とはいえ人工物も少しはある。
なかでもぼくが気に入ったのは、鬱蒼と樹々が生い茂る「縄文の森」に建てられた竪穴式住居だ。


入り口から住居のなかを覗き込んでみると、管理人さんが囲炉裏で焚き火をしていた。じつは、これには意味がある。住居内に煙を充満させることで、柱や屋根材などを煤でコーティングするのだ。そうすることで、防菌、防カビ、防虫効果が期待できるのである。これは「燻蒸」と言い、日本でも昔から茅葺き屋根の家を長持ちさせるために一般的にやってきたことだ。
ちなみに、ぼくは以前、縄文時代と現代のラブ・ストーリーがリンクしていく小説「ライアの祈り」を書いて、映画化もされた。執筆にあたり縄文時代についてあれこれ勉強したのだが、そのとき聞かされた縄文の研究者の言葉が忘れられない。
いわく、世界史上もっとも長く統治が続いた江戸時代ですら200年そこそこなのに、縄文と呼ばれる時代は一万年以上も続いた。どうして、ひとつの時代がここまで続いたのかというと、おそらく、それは「幸せだったから」ではないか、と言うのだ。
つまり、幸せだから変化の必要がなかった、というわけである。

縄文時代は、まさに自然と人が見事に共存した時代で、人間どうしの殺し合いはほとんどなかったと考えられている。しかし、弥生時代になると、稲作をはじめたことで人々は土地を奪い合うようになる。誰のものでもなかったはずの大地に線を引き、土地と水を占有しようとしはじめるのだ。そして、その時代から人々はお互いを殺し合うようになった。縄文人の遺骨には、殺し合った形跡はほとんど見られない。それどころか、むしろ小児麻痺の人が成人するまで生きたことが示される遺骨が見つかっているそうだ。これはつまり、人が人を助けながら生きていたという証拠である。一方、弥生人の多くの遺骨には、矢じりの刺さった痕や、撲殺された痕などが見られるという。
分け合い、助け合うことで、ずっと変わらなくてもいいと思えるような「幸せ」な人生を生きるか? あるいは、奪い合い、殺し合いながら一生を終えるのか? 現代人はどちらを選ぶことも可能だが、ぼく個人は、遥かなる縄文人たちの声に耳を傾けていたい。

◇ ◇ ◇
この公園には一日に1000トンという豊富な湧水がある。
園内には小川が流れていてザリガニ釣りを楽しむことができるのだが、そのルールが気に入った。

釣竿やテグスの使用は禁止。代わりに木の枝にタコ糸を結びつけ、イカなどを餌にして自由に釣って下さい、とあるのだ。しかも、ザリガニだけは園内から持ち帰ってもいいというのが子供には嬉しいはずだ。
ぼくは子供の頃、ザリガニ釣りにハマっていたので、懐かしさのあまり、やる気まんまんだったのだが、木の枝とタコ糸と餌の貸し出しがなかったので、泣く泣くお楽しみは次回にとっておくことに。

だだっ広い園内を散策していると、ひなたぼっこをする人、ウォーキングをする人、ベンチで昼寝をしたり、本を読んだりする人、レジャーシートを敷いてランチを食べている家族の姿などが見られた。みなさん、ずいぶんおっとりした顔をしているのが、この公園らしくていいと思う。
基本、何もない公園だけに、「何もないことを愉しむ」というスタンスなのだろうが、これは、現代ではむしろ贅沢ともいえる時間の使い方かも知れない。


大きな千駄堀池の北側まで歩くと、自然観察舎という施設がある。そこは、多くの生物が集う湿地や池を観察するための場所だ。施設内にはたくさんの望遠鏡が設置されていて、老若男女がレンズを覗き込み、「見えた、見えた」と楽しんでいる。
湿地の地域には木道が整備されているのだが、そこは自然保護の観点から自由に入ることはできない。しかし、土、日、祝日には自然解説の専門職員による、木道を歩きながらの「湿地観察会」というサービスもあるそうなので、利用してみるのもいいだろう。
あ、それと、もうひとつ。
「木もれ陽の森」と呼ばれる広場には、手ぶらでバーベキューを楽しむ施設があるので、友人たちと生ビール片手にわいわいやるのも楽しそうである。いずれにせよ、ぼくが次に来るときは、ザリガニ釣りセットと文庫本だけは忘れないだろう。

【21世紀の森と広場】
〒270-2252
松戸市千駄堀269番地
TEL.:047-345-8900
URL:https://www.city.matsudo.chiba.jp/shisetsuguide/kouen_ryokuka/top/
※21世紀の森と広場にはメダカは生息しておりません。
上記写真は館内水槽で飼育されているメダカです。
作者:森沢明夫
写真:鈴木正美
写真アシスタント:重枝龍明
編集:西小路梨可(主婦の友社)

