ほっと、人、あんしん。京葉ガス

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やっぱり千葉が好き! 第23回 里山の緑と風と土の癒し 〜大山千枚田/鴨川陶芸館

※著者の森沢明夫より

この日、空は分厚い雲に覆われていたけれど、緑あふれる里山の高台から見下ろす棚田の広がりはこの上なく清々しかった。

 

すー、はー。

 

思わず深呼吸をしてしまう。

広々とした風景のあちこちからはウグイスの歌声が聞こえてきて、音もなく棚田を駆け上がってくる風は、まだやわらかな若い稲の葉を揺らす。

 

ここは、大山千枚田−−−。

 

千葉県の名勝に指定された景勝地で、広さは約三・二ヘクタール。階段状に連なる田んぼの数は三七五枚を誇り、しかも、全国で唯一の「雨水のみで耕作をしている天水田」だそうだ。

 

棚田の風景は、季節や時間帯によって劇的に変わるところがいい。冬は霜柱が立った土の田んぼ。田植え直前の春は鏡のような水の田んぼ。そして、田植え以降は稲の生育によって風景がどんどん変わっていき、収穫前の「黄金色の階段」も、当然のことながら見事である。

 

ぼくは、これまでに何度も大山千枚田に足を運んで、春夏秋冬の風景を堪能してきたつもりだけれど、聞くところによれば、水が張られたばかりの「春の早朝」の風景が素晴らしいという。というのも、朝焼けの空の色彩を、田んぼの水が鏡のように映すからである。

 

大山千枚田を「見ているだけ」では物足りない、という人は、この棚田のオーナーになってみるという手がある。

オーナーと言っても、ただの所有者ではなく、ちゃんと、田植え、草刈り、稲刈り、脱穀、収穫祭など、一年に七回ほどの作業に加わる「参加・交流」を前提としたオーナーである。農作業については、プロの農家さんが丁寧に指導してくれるうえに、収穫したお米はすべて持ち帰れるというのも嬉しいではないか。

きっと、美しい自分の田んぼで、みずから手作業でもって育てたお米は、格別に美味しく感じられるだろう。

 

ちなみに、ぼくもいつか(もう少し時間に余裕ができるようになったら)、棚田のオーナーになってみたいなぁ……、なんて思ったりもしているのだけれど、この妄想はまだ誰にも言っていないので、くれぐれもオフレコでお願い致します。

 

◇   ◇   ◇

 

大山千枚田に吹き渡る青い風で、肺をたっぷり洗ったぼくら「やぱ千葉チーム」は、そこから車で数分のところにある「鴨川陶芸館」を訪れた。

 

目的は、ぼくの大好きな「陶芸体験」である。

里山の一角に建てられたこの静かな窯を往訪したのは個人的には二回目で、前回は、ビアマグを作らせて頂いた。

 

今回ぼくらに陶芸を教えてくれるのは、館長の恩田眞人さんである。

 

とても穏やかな雰囲気をまとった方なのだが、サラリーマンだった時代には、全国各地を渡り歩いて「橋」を造っていたという。「脱サラ」して、ここ鴨川の山中に窯を開いたのは、二五年ほど前のこと。それ以来、自分の作品を作りつつ、年間三〇〇〇人もの陶芸体験を受け入れているそうだ。

 

さて、今回ぼくらは、三つの体験をさせて頂くことになった。

素焼きしてある器に絵を描く「絵付け」。粘土を均一にこねて空気を抜く「土練り」。そして、ご存知「ろくろ」である。

 

まずは絵付け体験からスタート。

これは、すでに素焼き済みのカップ、皿、鉢、茶碗のどれかに、陶器用のパステルや絵の具で自由に絵を描くという体験である。

ぼくは絵を描く代わりに、本物の紅葉の葉を鉢のなかに置いて、その上から歯ブラシと茶漉し(針金のもの)を使って細かな絵の具の飛沫を吹き付けるスパッタリングの技法を試してみた。こうするとスプレーで色付けしたようにグラデーションが作れるし、最後に置いておいた紅葉の葉を取れば、そこだけ型抜きしたような模様が描かれるのだ。

各人それぞれ絵やデザインを描き終えたら、バケツのなかの透明な釉薬をくぐらせて完成である。

 

次は、菊練り。

これは粘土のなかから空気の「気泡」を完全に取り去るための練り方である。もしも気泡が残されたままの土で作品を焼くと、窯のなかで空気が膨張して爆発して割れてしまうのだ。しかも、その際に釉薬が周囲に飛び散り、周りの作品まで台無しにしてしまうのだという。

 

まずは館長が菊練りのお手本を見せてくれたのだが、いざ、真似してやってみると、これがじつに難しかった。館長が練った粘土は、みるみるきれいな菊の模様になっていくのだが、隣でぼくらが真似してみても、もはや滅茶苦茶。菊の「き」の字にもなりやしないのである。

「この練りをマスターするのに、半年かかる人もいるんですよ」

館長が笑いながら言うけれど、それ、わかる気がする。

 

三つ目のろくろは、ちゃんとプロが菊練りをしてくれた粘土を使えるから安心だ(笑)

電動ろくろを回しながら、ちょっとざらざら感のある土に、たっぷりの水を着けながら形を整えていく。ろくろは館長さんではなくスタッフさんが教えてくれたのだが、この方も教え方が上手かった。言葉選びが的確だから、ぼくらにコツが伝わりやすいのだろう。

 

これまで、ぼくは、陶芸体験をかれこれ五回ほどやってきた。毎回とても愉しいし、やっても、やっても、飽きることがない。

きっとぼくはDNAレベルで好きなのだ。土いじりが。

ろくろを回しながら、冷たい粘土に触れていること−−−。

ただそれだけでも、とても心が癒されるのだが、そこに粘土を自由な形に変えていくというクリエイティブな楽しさが加わると、もはや瞑想に近い癒しにすら思えてくる。

 

今回ぼくは、鉢と丼とコップを作ってみた。

自分としては、まずまず思い通りの形に仕上がった気がしているのだけれど、陶芸ばかりは、いざ焼きあがってみないと、どんな作品に仕上がるのかが分からない。つまり、思いもよらない色になったり、想像以上に小さくなってしまったり、ということが頻繁にあるのだ。そして、そういう「手に負えない」感じがまた面白くもあるのである。

 

さて、ひと通りの体験が終わったところで、館長さんがコーヒーを淹れてくれた。

ぼくは、そのコーヒーを頂きながら訊ねた。

「今日ぼくらが作った作品は、いつ頃、焼いて送って頂けるんですか?」

すると館長はメガネの奥の優しそうな目を少し細めながら言った。

「うーん、だいたい、ひと月半くらい経った頃ですね」

つまり、忘れた頃に送られてくる、のである。

わくわくしながら宅配便の箱を開け、完成した作品を手にしたときのことを想像したら……。

いま手にしているブラックコーヒーの味わいが、ほんのかすかに深くなったような気がするのだが、これは気のせいだろうか?

 

 

【大山千枚田】

〒296−0232

千葉県鴨川市平塚540

TEL:04-7099-9050

 

【鴨川陶芸館】

〒296−0232

千葉県鴨川市平塚1602

TEL:04-7098-0012

URL: http://www.kamogawa-tougeikan.com

 

※2019年6月時点の取材内容です。

 

作者:森沢明夫

写真:鈴木正美

写真クリエイティブマネージメント:重枝龍明

編集:西小路梨可(主婦の友社)