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presented by SHUFUNOTOMO

やっぱり千葉が好き! 第20回 獲って、食べて、お土産も! 〜簀立て漁

テレビのニュースになるほどに列島各地が暴風雨にさらされた翌朝−−−。

空は気持ちよく晴れ上がり、気温もぐんぐん上がり、東京湾にさらりとした初夏の風が吹き渡った。

まさに、ぼくら「やぱ千葉チーム」がこれから楽しむ「簀立て(すだて)漁」日和だ。

 

簀立て漁とは、「簀」と「浅瀬の地形」と「潮の干満」を見事に利用した伝統漁法のことで、漁の流れをシンプルに説明すると、こうなる。

 

まず、小型の定置網を浅瀬に設置しておく(=簀を立てておく)。潮が引くにしたがって海が干上がっていくので、魚たちは簀に沿って沖へ沖へと逃げていく。しかし、逃げた先は袋小路。魚たちは一箇所に集められてしまう。そして、その袋小路もいっそう潮が引いていき、水深が膝下ほどになった頃、背びれを出して泳ぐ魚たちを、われわれ人間が、たも網や手づかみでラクラク捕えてしまう、という漁である。

 

現在の簀立て漁は、大人も子供も楽しめる内房の体験レジャーのひとつとして存在していて「すだて遊び」と称されることも多い。

ちなみに、ぼくは釣り好きなうえに「魚獲りおたく」なので、これまで日本各地でいろんな漁を体験してきたけれど、いまだ地元千葉県の伝統漁法である簀立て漁は未体験だった。それゆえ、この日のテンションはとても高く、嵐の前日から子供みたいにわくわくが止まらないのだった。

 

さて、今回ぼくらがお世話になったのは、木更津にある「すだて実三丸」さん。ご主人の実形裕治さん(57)と奥さんのよしえさん(58)が仕立ててくれる。

集合は、この日の引き潮の時刻に合わせた午前10時。

さっそく港でレンタルの胴長をはいて、桟橋から船へと乗り込み、

いざ、出航!

海原に繰り出して気分が盛り上がったのだが、簀立てが設置されている海までは、ものの数分で到着してしまう。浅場で漁をするのだから、そりゃそうだ。船酔いをする人でも、これなら心配いらない。

 

実形さんが船のアンカーを打ったら、みんなで東京湾横断道路や海ほたるがすぐ近くに見える浅海へと降りる。潮はすでに膝上くらいまで引いている。

「じゃあ、このたも網を持って、簀立てのなかに行こうか」

実形さんに言われるまま、各々がたも網を手に、簀立ての袋小路になっているところへと入っていく。

と、すかさずぼくは声をあげてしまうのだった。

 

「うわ、すげえ。たくさんいるよ」

簀で囲われた直径4メートルほど(ぼくの目測)の円形の袋小路のなかに、大、中、小、さまざまな魚たちが追い込まれていた。

人の影に驚いて、足元をビュンビュンと魚たちが逃げ惑う。

この瞬間から、ぼくらの心は一気に童心にかえったのだった。

「そっちに大物がいる!」「あっちに逃げた」「イカもいる!」「両方から挟み撃ちだ!」「うわ、この魚、なに?」「でっかいサメがいますっ!」「毒針のあるアカエイがいるから気をつけて!」

もはや会話の質が小学生レベルである。

それくらい、大人がはしゃいでしまうのだ。

 

写真:スズキ

 

 

実形さんいわく、家族で来るお客さんは、たいていお父さんがいちばん楽しんでしまうのだそうだ。

分かるよ、その気持ち。

 

魚マニアなぼくとしては、獲れる魚種がさまざまで、これがまたじつに楽しいのだ。

 

写真:ダツ

 

 

ぼくが覚えている魚だけでも、クロダイ、ダツ、ボラ、コノシロ(コハダ)、アオリイカ、スズキ、ギマ、ドチザメ、フグ各種……、さらに、南国の海にいるはずの巨大なイカ、コブシメまで獲れてしまったのには驚いた。

 

写真上:コブシメ/写真下:ドチザメ

 

 

ときには、コブシメよりもずっと大きな深海の巨大イカ(大きいものは30kgにもなる)、ソデイカが入ったり、東京湾にはいるとは思えない熱帯魚のひとつイトヒキアジが入ったりもするそうだ。温暖化の影響もあるのだろうが、実形さんからそういうマニアックな話を聞くと、ぼくはひとり興奮してしまうのである。

 

みんなでワイワイと魚を獲ったあとがまた楽しい。

 

なんと、実形さん夫妻が獲れたての魚介を現場で料理してくれるのである。しかも、それを船上で味わえるというのだから最高ではないか。

 

クロダイの活き造り、なめろう、アオリイカの刺身、天ぷら各種、あさりの釜飯と味噌汁……、そんな贅沢な料理をつまみに、ぼくらは持ち込んだビールで、

 

乾杯!

 

ぐびぐびぐび……、ぷはぁ♪

広々とした東京湾の海原。青々とした空。そして、肌をやさしく撫でていく初夏の海風。

 

嗚呼、しあわせって、こういうことだよな−−−。

なんて、しみじみ思いながら、ニヤけたぼくらは満腹になったお腹を船上でさするのである。

 

食後は、完全に潮が引いて干潟となった海で自由に遊べる。

 

ぶらぶら散歩をしたり、砂を掘ったりしていると、いろんな生物と出会えるのが嬉しい。二枚貝の貝殻に卵を産み付けたイイダコやら、潮溜まりに取り残されたナメタガレイやら、ハマグリほどの大きさのカガミ貝などが獲れた。ここにスコップと塩があればマテ貝獲りを楽しめたのだが、今回は準備をしていなかったので断念。次回こそは!

 

やがて、ゆっくりと潮が満ちてきて、干潟の上で座礁していた船がぷかぷか浮かびはじめると、すだて遊びの時間は終了となる。

それぞれ持参したクーラーボックスに、持って帰りたい魚をどさどさ詰め込んで、実形さんに氷を入れてもらう。

簀立て漁で獲れた魚は、好きなだけ持ち帰っていいのだ。

ぼくは、クロダイ、スズキ、コブシメなどをクーラーボックスに詰め込んだ。それだけでも十分に心がほくほくしているのに、実形さんが「よかったら、フグも持っていきなよ」という。

なんと実形さん、フグの調理師免許を持っているのである。ぼくらの目の前でさくっとフグを捌いて、それを持たせてくれた。

獲って、食べて、お土産付き−−−。

簀立て漁、病みつきになりそうである。

 

さて、ずっしり重たいクーラーボックスを自宅に持ち帰ったその夜は、もちろん新鮮な「お魚ざんまい」である。

クロダイの刺身、スズキの洗いとムニエル、イカの腸焼き、焼きフグを作って、よく冷えた大吟醸をクイっとやる。

ほろ酔い気分になったぼくは、ニヤニヤしながら考えた。

秋になったら、また簀立てに繰り出すぞ、と。

 

 

【すだて実三丸】

〒292-0008

千葉県木更津市中島2178番地

TEL:0438-41-1780

HP: https://jitsusanmaru.grupo.jp/

 

 

作者:森沢明夫

写真:鈴木正美

写真クリエイティブマネージメント:重枝龍明

編集:西小路梨可(主婦の友社)