日本でも都道府県によってさまざまな郷土料理があるように、イタリアの各地方にはバラエティ豊かな郷土料理が存在している。パスタやピザといったメジャーなメニューとはまた違う、まだまだ知られていないイタリアングルメの宝庫といえるのが郷土料理だろう。
数あるイタリア料理店のなかでも未知なる魅力にあふれた郷土料理を楽しめる店はそう多くないが、千葉にいながらにしてイタリア郷土料理を楽しめる店がオープンした。その貴重な一軒は、北小金駅から歩いてすぐの好立地にある『オステリア ダ タカ』。

北小金駅まで徒歩1分のロケーション
イタリアンレストランのカテゴリーは高級店をあらわすリストランテや大衆的な食堂を意味するトラットリアがおなじみだが、『オステリア』は日本でいう居酒屋的なお店をさす。『タカ』はオーナーシェフ大友貴史さんの愛称、Daにはイタリア語で『誰々の家』の意味があるそうで、タカさんご本人は、
「店名は省略していただいて『タカ』とか『タカさん』などと呼んでいただけたらなと思っています」
と、笑顔で語る。

タカさんこと大友貴史さんと奥様。新婚旅行を兼ね、二人で3カ月ほどイタリアめぐりをしたことも
イタリアの郷土料理を提供する都内の店でシェフとしてのキャリアを積み上げきたタカさんが独立を決意し、念願の店を北小金にオープンさせたのは2019年7月のこと。
「松戸は僕の地元。恩返しといいますか、店を出すなら地元でという思いはずっとありました。40代半ばで自分の店をもつことになったので、残りの人生は地元に根ざしていきたい。そう思っています」
料理人としての出発点は青山の高級イタリア料理店だったというタカさんだが、最初の店でしばらく修業した後、都内のイタリア郷土料理店に入店。イタリア中を巡って郷土料理を学んだというシェフの元で修業を積み、自らも渡伊。さまざまな地方に足を延ばし、庶民に愛され続けている味を自分の目と舌で確かめてきた。
「僕が得意とするイタリアの郷土料理は庶民の食卓で親しまれている普段着の料理です。肩肘を張って食べる料理ではないと思っているので、家に帰ってくるようなつもりで、あるいは友達の家に行く感覚で気軽に足を運んでもらえたらうれしいですね」
と、タカさん。オープンキッチンもタカさんの思いのあらわれなのだろう。厨房にはさえぎるものがひとつもないため、カウンター席からは素材や調理器具はもちろん、シェフの一挙手一投足が観察できる。

客席との隔たりがないオープンキッチン
「これは何?」とお客さんから質問があれば、シェフ自らが、料理にまつわるストーリーを惜しげもなく話してくれる。
お客さんとの会話を広げたいという思いから、店内に掲げた黒板メニューの中にはイタリア語のままのものがいくつかある。たとえば、「アニョロッティ ダル プリン」。これを「北イタリアの詰め物パスタ」と書けばどのような料理なのか、なんとなくイメージができる。そこをあえて「アニョロッティ ダル プリン」とすることで、「どんな料理なのだろう?」「これはこういう料理なんですよ」といったように会話につなげられればというのがタカさんのねらい。

ひとつの料理から会話がはずむ。タカさんが目指しているのは、家庭的で居心地のいい空間
展開しているメニュー数は常時30品程度。なかでも店の名物となりつつあるのが、生ハムと一緒にいただく揚げパン、トルタフリッタ。

トルタフリッタは地方によってニョッコフリットと呼ばれる
揚げパンといっても給食などでおなじみの砂糖をまぶしたものとはまったく違い、中が空洞になっているのが特徴のひとつ。イタリアのエミリアロマーニャ州では定番の前菜料理として親しまれ、揚げたてのパンと生ハムの塩気が好相性。一度食べたらやみつきになること間違いなし。
微発泡の赤ワインや白ワイン、クラフトビールといったアルコール類とも相性がいい。

パンの上に生ハムをのせると生ハムがパンの熱でいい具合にとろり
ランチメニューは、すべてのセットにトルタフリッタ付き。サラダとパスタ、ドリンクがついたAランチ1100円と、サラダ、前菜2品、パスタ、デザート2種、ドリンクがついたBランチ1650円、サラダと前菜3品、手打ちパスタ、デザート3種とドリンクがついた2200円のCランチの3種類。

Bランチのサラダと前菜のトルタフリッタ、さつまいものスープ

ランチのパスタは3種類のなかから好きなものを1品、選べる。写真はローマ風カルボナーラ

Cランチのデザート。左から焼きリンゴのケーキ、ティラミス、中にドライフルーツが入ったシチリア地方のお菓子カッサータ
ディナーは黒板メニューの前菜、パスタ類、肉料理から好きなものを選び、シェアするのがおすすめ。前菜は400~800円、パスタ類は1100円~1650円、肉料理は1400~1760円程度と、リーズナブルな価格設定になっている。

写真はヴェネチアの庶民料理、サルデ・イン・サオール500円。冷蔵庫がない大航海時代の漁師たちが長い船旅生活の中で保存食にしていた一品で、タマネギをたくさん使っているため、ビタミンCの欠乏が原因で起こる壊血病の予防食としても活用されていたとか。

こちらは日曜日などに大量に作った料理の余り肉や野菜の切れ端を詰め物の素材に使ったのが始まりという、ピエモンテ風アニョロッティ ダル プリン1650円。ロースト肉やスパイス、パスタフレスカソースのコクが味に深みを与え、お祝いの席やクリスマスなどごちそうの代名詞にもなっている料理。

ラビオリのことをピエモンテ方言で「プリン」といい、店ではタカさんが手作りしている

メインにおすすめの一品、中世にフィレンツェのドゥオーモのクーポラ建築に関わった煉瓦職人が生み出したといわれるペポーゾ アッラ フォルナチナ1650円。
クーポラの建築作業はとても重労働で、裕福とはいえなかった職人たちは常に空腹だったそう。長時間、窯で煮込んだ肉はホロホロ。黒胡椒がきいているため食が進み、職人にはたくさんのパンを食べることができる料理として人気だったという。
料理に対するタカさんのこだわりは、できるだけイタリアの郷土料理をベースにしていくこと。ただ、本場どおりの味だと日本人の舌にあわない料理もあるため、ベースを崩さないようにしながらオリジナルのアレンジも大事にしている。
イタリアの郷土料理に特化した店でキャリアを積み上げてきただけに、引き出しの数は数え切れないほどあるタカさん。『オステリア ダ タカ』で展開していきたいメニューはたくさんあるといい、ゆくゆくは日本ではあまり知られていない珍しいパスタや、イタリア最古のパスタも提供したいとのこと。
これからもどんな庶民派グルメが登場するのか、お楽しみは尽きない。
【オステリア ダ タカ】
〒270-0004
千葉県松戸市殿平賀205
JR北小金駅北口から徒歩約1分 北小金駅から約60m
TEL:047-701-7250
営業時間:ランチ/月~土11:30~14:00(L.O.13:30)、ディナー/月~金18:00~21:30 (L.O. 21:00)、土・祝日17:30~21:00(L.O. 20:30)
定休日:日
駐車場:なし(近隣にコインパーキング有)
※2019年11月時点の情報です。
取材/文 小山まゆみ
写真 森安照

