新浦安の「コロニー」は、フィンランドとスウェーデンのビンテージ雑貨店とカフェを内包したお店である。
店舗は、閑静な住宅街のなかにひっそりとあって、まるでごくふつうの一軒家のようなつくりだから、はじめて訪れる人はうっかり見逃して通り過ぎてしまうかも知れない。



しかし、一歩、店内に足を踏み入れてみると、周囲の住宅地とは明らかに違った「異国の空気」に包まれる。そして、たいていの人は(とくに女性は)、ふわっと笑みを咲かせてこう言うのだ。
「かわいい♪」
しかも、ただの「かわいい」ではなく、語尾に「♪」がついた「かわいい」なのである。
そこには店主の古川佳代さんが自らの足で北欧を巡り、仕入れてきたビンテージ雑貨の数々が並べられている。おしゃれで、どこか凛々しくて、懐かしくもあり、そして不思議と愛着がわくような、そんな「かわいい♪」雑貨たちに囲まれると、ヒゲマッチョな小説家のぼくですら、うっかり「うわぁ、かわいい♪」なんて言ってしまう。

この「コロニー」は、今年でオープンから13年目。
かつて京都の短大で「美学美術史」を学んでいた古川さんが、就職したギャラリーで北欧家具にハマったのが、そもそものきっかけだったそうだ。
「高価な家具じゃなくて、みんながふつうに使える素敵な日用雑貨をより多くの人に知って欲しいと思って、このお店をはじめようと思ったんです。北欧のビンテージ雑貨のデザインって、アジアの生活圏によくなじんで、畳の部屋で使っても違和感がないんです」



なるほど、古川さんの言うとおり、この店に並べられている雑貨たちは、どこか古き良き「昭和の日用品」の雰囲気を漂わせている気がする。最初にぼくが感じた懐かしさは、そういうところにあるのだろう。
取材中に来店するお客さんたちは、すべて女性だったが、彼女たちもやっぱり例の台詞「かわいい♪」を連発していた。
うん、わかるよ、その気持ち。ボキャブラリーが必要な小説家でさえ、ついついそう言ってしまうくらいだからね。

ここ「コロニー」では、年に5回ほど、フィンランドの伝統手芸などの制作体験ができるワークショップが開催されているという。こちらはホームページに情報がアップされるそうなので、興味のある人はチェックして申し込んでみるといいかも知れない。ほんわかした古川さんのしゃべりのテンポに和みながら、きっとあなたも「かわいい♪」伝統手芸作品を作れるはずだ。


雑貨の他に、もうひとつ、この店でメインとなっているのが、カフェである。
「北欧の旅先で知り合った現地の人たちから、いろいろな家庭料理を習ったんです。その味をコロニーで再現して、しかも、それを北欧の食器で愉しんで頂けたらいいなぁ、と思って、このカフェをはじめました」
小さなカフェの席数は、わずか5席。
しかも、お店が開いているのは木、金、土曜日だけなので、食べてみたい人は、念のため予約をした方がいいかも知れない。
ご飯のメニューはランチ一種類だが、デザートやコーヒー、紅茶なども味わえる。イベント時をのぞくと、基本的に夜は営業していないそうだ。

さて、ぼくら「やぱ千葉」取材チームも、せっかくなのでランチを頂くことにした。この日は『フィスク ソッパ』というメニューだった。

「フィスクは魚で、ソッパはスープのことです」
さっそく古川さんが教えてくれた。
いわゆる北欧風の魚介スープである。
具材には、ノルウェー産サーモン、生鱈、甘エビ、ムール貝などが使われていて、これを北欧のビンテージ食器とカトラリーで頂く。

で、そのお味は–––、やっぱり「かわいい♪」のである。
北欧の家庭料理のあたたかさと、おしゃれなハーブの香りと、毎日でも食べたくなるようなやさしい美味しさを総合すると、どうしても「かわいい♪」に集約されてしまうのだ。
1,200円のランチで、このレベルの「かわいい♪」を味わえるのならお手頃に違いないし、じつは、この後に食べた甘すぎないデザートも、酸味のあるコーヒーも、北欧の美味しさが凝縮していて、ぼくらは胃袋から癒されてしまうのだった。

食後、静かなピアノの音楽に包まれながらまったりしていたら、新たな女性客2人が隣の雑貨コーナーに入ってきた。そして、予想していた通り「かわいい♪」を連発しはじめた。
すでにお腹も心も「かわいい♪」で満たされたぼくらは、クスッと笑いながら顔を見合わせて、うんうん、わかる、わかる、と鷹揚に頷き合うのであった。

【古い北欧雑貨と小さなカフェ koloni】
〒279−0012
千葉県浦安市入船4-12-17
TEL:047-718-2062
OPEN:木金土 11:00-17:00
※2019年10月時点の内容です。
作者:森沢明夫
写真:鈴木正美
写真クリエイティブマネージメント:重枝龍明
編集:西小路梨可(主婦の友社)

