やっぱり千葉が好き! 第7回 本当は内緒にしたい古民家カフェ 〜オーブンプラス
かつて、ぼくの家から車で十五分ほどのところに、とてもお気に入りのカフェがあった。
民家の一階部分の和室をそのままお店にした、いわば「隠れ家的なカフェ」である。外見はごくふつうの一軒家なので、まさかそこが素敵なカフェだとは誰も思わない。つまり、誰かに紹介されないとたどり着けないお店なのだった。店内ではいつもセンスのいい手作り作家さんの作品を展示・即売していて、しかも、その作家さんが毎月代わるから、それらの作品を眺めているだけでも愉しめたものだ。もちろん、コーヒーも食事もいちいち美味しかった。
しかし、残念ながら、そのカフェは数年前に閉店してしまったのである。
以来、ぼくは、車でサクッと行ける距離に、新たなお気に入りのカフェはないものかと探していたのだが、ついに見つけてしまったのである。

鎌ケ谷市東初富(うちから車で三〇分くらいかな?)にある『オーブンプラス』がそれだ。古民家の一部をリノベーションして造った、いわゆる「古民家カフェ」である。
オーナーの小林啓介さんの名刺には、こう書いてある。
『オーブン料理で人を幸せにする CAFE』
この志からして、すでにぼく好み。
「仕事」とは、他者に「仕える事」と書く。つまり、人を幸せにしてこそ「仕事」なのである。

店に入り、天井を見上げると、黒光りする太い梁がデーンと交差していて「なるほど古民家」という感じだが、それ以外は、むしろ現代的で洒落たカフェだ。水道管らしきものを壁に取り付けて、その両端の穴にエアプランツを活けているのも面白いし、照明や壁掛け時計もいちいち格好いい。客席は、暖炉をリノベーションしたカウンターが二席に、二人がけのテーブルが六卓と、サイズ感もちょうど「隠れ家」的である。

この日、チーム「やぱ千葉」(この連載「やっぱり千葉が好き!」の取材チーム)の四人がオーダーしたのは、それぞれ違ったランチメニューだった。ぼくは「極太ペンネ(リガトーニ)のグラタン」に即決。他の三人は「ローストビーフの山盛りサラダ」「ポルケッタランチ」「牛すじ煮込みのスキレット焼き」を注文し、全員が「ドリンク・フレンチトーストセット」を付けた。
このセットのコーヒーは二種類から選べるというので、それぞれどんな特徴があるのかと訊ねてみると、小林さんは、よくぞ聞いてくれた、とばかりに答えてくれた。
「ひとつは、私が、そのフルーティーな風味に衝撃を受けた豆です。で、もうひとつは、味わい深い苦味を楽しめる豆ですね。どちらも美味しいですよ」
ぼくを含む三人は、衝撃のフルーティー。残りの一人が苦味系を注文した。
料理は小林さん一人で作っているのだが、手際がいいのだろう、ほとんど待たされずに出てきた。


さて、そのお味だが、あれこれ御託を並べずに、さっさと結果から言いますと……、
「ぜんぶ美味しい!」
が、四人の総意だった。
ぼくらは、四種の料理をシェアし合ったのだけれど、全員がそれぞれの味に満足。
衝撃のフルーティーを標榜するコーヒーも、口にした瞬間に納得の風味だった。

しかも、最後に出てきたフレンチトーストが極め付けだったのだ。
熱々の分厚いフレンチトーストの上に冷たいバニラアイスがのっていて、さらに、たっぷりのハチミツ……。ナイフで切って口に入れると、ローズマリーの香りがふんわりと鼻に抜けていくのである。これは小林さんが庭で育てているというハーブだ。
「このデザートも幸せだなぁ……」
ぼくは食べなから、うっとり半目になってしまった。
そんなぼくを見ながら、小林さんは言う。
「そもそも、私はパティシエだったんですよ」

どうりでデザートまで珠玉の逸品に仕上げるワケである。
小林さんは調理師学校を卒業後、フランス菓子店、創作レストランなどで主に専属パティシエとしてキャリアを積み、その後、パン店で数年の修行をしているときに「小麦アレルギー」になってしまったという。原因は、小麦の浴びすぎ。
「パン職人には、けっこう多いんですよ」
とのことだが、ぼくは知らなかった。従兄弟の家がパン屋なのに。
小麦アレルギーになってしまった小林さんは、当然のことながらパン職人の道をあきらめた。そして、その後も紆余曲折あって、二〇一七年十一月に、ここ「オーブンプラス」をオープンしたのだそうだ。
いやはや、人に歴史あり、である。
それにしても、小林さんがパン職人にならないで、この店をはじめてくれてよかったなぁ……、と思いつつ、食後、ぼくはメニューをパラパラとめくってみた。
各種ハーブティーも美味しそうだし、スリランカ直送という紅茶も気になる。
もっと言うと、十八時からはディナータイムで、お酒も飲めるそうなので、次の書き下ろし小説を脱稿させたあかつきには、こっそり乾杯しにこようかな……なんて妄想してしまうのである。

【OVEN+(オーブンプラス)】
〒273-0122
千葉県鎌ケ谷市東初富5-7-26
TEL:047-778-2754
URL: http://oven-plus.com/
作者:森沢明夫
写真:鈴木正美
写真アシスタント:重枝龍明
編集:西小路梨可(主婦の友社)

